Blast from the Past

98年以前のアイドルの歌を聴きたいと思って何か無いかなと探してみたら広末涼子の1stアルバム『ARIGATO!』がありました。20世紀最後のアイドルが展開する90年代J-POPの粋を集めた世界は思春期のように甘酸っぱかったあの時代そのものを象徴しているみたいで、懐かしくもあり逆に新鮮でもあった。たしか1stシングルのカップリングナンバーでもあった「とまどい」は07-08シーズンの僕のテーマソングにしてもいいぐらい、過ぎ去った日々への切ない郷愁を掻き立てる綺麗な曲です。90年代と言えば最近はまた『サインフェルド』の最も面白いと言われる第5〜7シーズンあたりを縦横無尽に見てしまう。もっと新しいのも見たほうがいいんだろうなと思いつつも安心感のある笑いを指向してしまいます。以前ダウンタウンの松本さんがラジオで、ビデオ店に行っても借りられているのは『ごっつ』や『ガキ』の昔のビデオばかりでそれらを超えるような新しい笑いが出てきていないみたいなことを話していたのですが、言われてみると僕もサインフェルド以降はまったものってない気がする。

今のコメディと昔のそれとどちらが優れているのかとかはわからないけど一つ思えるのは、今の時代に生み出されるものは昔の傑作を復刻したDVDと同じ棚に並べられて、同時代のライバルのみならず過去とも戦わなければならないので大変だなってことです。スポーツとかのジャンルでもそうなのかもしれないけど。先週行われた試合をビデオで見るのと15年前のそれを見るのとでは行為自体として本質的に何も変わらないし、こうやって現在と過去の境界が無くなり時間の一方通行性が脱構築されるのは革命的で素晴らしいことに思える。僕は古いものばかり見て後ろ向きとかディフェンシブすぎるとかよく非難されるけど、過去は現在にしか存在しないし、過去を振り返るのは現在を楽しむための一つの手段なんだ。歴史を持っていることは人間が人間たる所以でもあるわけで、メディアの進歩によって娯楽の自由度が増し共通体験や共通認識としての時代や世代といったものが崩壊していくのは痛快です。

ところでジェリー・サインフェルド松本人志は結構似てると前から思ってるんですがどうでしょうか。笑いのバックグラウンドにコンプレックスがあるところや、世の中の不条理に小理屈で突っ込むスタンダップのネタや、女弁護士のエピソードでジョージが言ってたみたいな何も面白いことをしていなくてもその佇まいや物腰や声のトーン自体から可笑しさが滲み出ているようなところなど、2人の天才コメディアンに共通点を見出してしまいます。『ごっつええ感じ』とかテレビで見てたときは幼すぎて意味が分かってなかったけど、色々経験したり理論を勉強した今になってコントの含蓄が理解できると面白くて仕方ない。最近『一人ごっつ』とか『VISUALBUM』とかを見て楽しんでいます。"Visual Bum"ってすごいかっこいいフレーズだなと思う。